を致して粗相をした、免《ゆる》せ……其方《そち》に尋ねる事があるが、其方も存じて居《お》るであろう、其方の家へ出入をする木具職の長二郎と申す者は、当時江戸一番の名人であると申す事を、其方の父から聞及んで居るが、何ういう人物じゃ、職人じゃによって別に取※[#「てへん+丙」、第4水準2−13−2]《とりえ》はあるまいが、何ういう性質の者じゃ、知らんか」
との御意に、島路は予《かね》て長二が伎倆《うでまえ》の優れて居《お》るに驚いて居るばかりでなく、慈善を好む心立《こゝろだて》の優しいのに似ず、金銭や威光に少しも屈せぬ見識の高いのに感服して居ります事ゆえ、お尋ねになったを幸い、お邸《やしき》のお出入にして、長二を引立てゝやろうとの考えで、
島「お尋ねになりました木具職の長二郎と申します者は、親共が申上げました通り、江戸一番の名人と申す事で、其の者の造りました品は百年経っても狂いが出ませず、又何程|粗暴《てあら》に取扱いましても毀れる事がないと申すことでございます、左様な名人で多分な手間料を取りますが、衣類などは極々《ごく/″\》質素で、悪遊びをいたさず、正直な貧乏人を憐れんで救助するのを楽《たのし》みにいたしますに就《つい》ては、女房があっては思うまゝに金銭を人に施すことが出来まいと申して、独身で居ります程の者で、職人には珍らしい心掛で、其の気性の潔白なのには親共も感心いたして居ります」
和「フム、それでは普通の職人が動《やゝ》ともすると喧嘩口論をいたして、互に疵をつけたりするような粗暴な人物じゃないの」
島「左様でございます、あゝいう心掛では無益な喧嘩口論などは決して致しますまいと存じます、殊に御酒は一滴も戴きませんと申す事でございますゆえ、過《あやま》ちなどは無いことゝ存じますが、只今申上げました通り潔白な気性でございますゆえ、他《ひと》から恥辱でも受けました節は、その恥辱を雪《すゝ》ぐまでは、一命を捨てゝも飽くまで意地を張るという性根の確《しっ》かりいたした者かとも存じます」
和「ムヽ左様《そう》じゃ、其方《そち》の目は高い……長二郎は左様いう男だろうが、同人の親達は何ういう者か其方は知らんか」
島「一向に存じません」
和「そんなら誰か長二郎の素性や其の親達の身の上を存じて居《お》る者はないか、其方は知らんか」
と根強く長二郎のことを穿鑿《せんさく》
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