告被告と申します、双方の家主《いえぬし》五人組は勿論、関係の者一同がごた/\白洲へ這入ります。此の白洲の入口の戸を締切る音ががら/\ピシャーリッと凄《すさま》じく脳天に響けますので、大抵の者は仰天して怖くなりますから、嘘を吐《つ》くことが出来なくなって、有体《ありてい》に白状をいたすようになるという事でございます。今大勢の者が白洲へ呼込みになる混雑の中を推分《おしわ》けて、一人の男が御門内へ駈込んで、当番所の前へ平伏いたしました。此の男は長二でございます。
二十六
当番所には同心|一人《いちにん》と書役《かきやく》一人が詰めておりまして、
同「何だ」
長「へい、お訴えがございます」
同「ならない」
と叱りつけて、小者に門外《もんそと》へ逐出《おいだ》させました。この駈込訴訟と申しますものは、其の筋の手を経て出訴《しゅっそ》せいといって、三度までは逐返すのが御定法でございますから、長二も三度逐出されましたが、三度目に、此の訴訟をお採上《とりあ》げになりませんと私《わたくし》の一命に拘《かゝ》わりますと申したので、お採上げになって、直に松右衛門《まつえもん》の手で腰縄をかけさせまして入牢《じゅろう》と相成り、年寄へ其の趣きを届け、一通り取調べて奉行附の用人へ申達《しんたつ》して、吟味与力へ引渡し、下調《したしらべ》をいたします、これが只今の予審で、それから奉行へ申立てゝ本調になるという次第でございます。通常の訴訟は出訴の順によってお調べになりますが、駈込訴訟は猶予の出来ない急ぎの事件というので、他の訴訟が幾許《いくら》あっても、それを後《あと》へ廻して此の方を先へ調べるのが例でありますから、奉行は吟味与力の申立てにより、他の調を後廻しにして、いよ/\長二の事件の本調をいたす事に相成りました。指物師清兵衛は長二が先夜の挙動《ふるまい》を常事《たゞごと》でないと勘付きましたから、恒太郎と兼松に言付けて様子を探らせると、長二が押上堤で幸兵衛夫婦を殺害《せつがい》したと南の町奉行へ駈込訴訟《かけこみうったえ》をしたので、元町の家主は大騒ぎで心配をして居るという兼松の注進で、さては無理に喧嘩を吹《ふっ》かけて弟子師匠の縁を切り、書付の日附を先月にしたのは、恩ある己達を此の引合に出すまいとの心配であろうが、此の事を知っては打棄って置かれない、何《なん》
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