たび/″\》間違うからお父《とっ》さんが長二という名をお命《つ》けなすったんだが、是にも訳のある事で、お前の手の人指《ひとさしゆび》が長くって中指と同じのを御覧なすって、人指の長い人は器用で仕事が上手になるものだから、指が二本とも長いというところで長二としよう、京都の利齋親方の指も此の通りだから、此の小僧も仕立てようで後には名人になるかも知れないと云って、他の職人より目をかけて丁寧に仕事を教えてくだすったので、お前斯うなったのじゃアないか、それに又お前のお母が歿《なくな》った時、お父さんや清五郎さんや良人《うちのひと》で行って、立派に葬式《ともらい》を出して上げたろう、お前は其の時十七だッたが、親方のお蔭で立派に孝行の仕納めが出来た、此の御恩は死んでも忘れないと涙を流してお云いだというじゃアないかね、元町へ世帯《しょたい》を持つ時も左様《そう》だ、寝道具から膳椀まで皆《みん》なお前お父さんに戴いたのじゃアないか、此様なことを云って恩にかけるのじゃアないが、お前左様いう親方を袖にして、自分から縁切の書付を出すとア何うしたものだえ、義理が済むまいに、お前考えてごらん、多くの弟子の中《うち》で一番親方思いと云われたお前が、此様な事になるとは私にはさっぱり訳が分らないよ」

        二十五

 政「恒兄に擲《ぶ》たれたのが腹が立つなら、私が成代《なりかわ》って謝るからね、何だね、子供の時から一つ処《とこ》で育った心安だてが過ぎるからの事だよ、堪忍おしよ、お父さんもお年がお年だから、お前でもいないと良人《うちのひと》が困るからよ、お父さんへは私がお詫をするから、長さんマアちゃんとお坐んなさいよ、何うしたのだねえ」
 と涙を翻《こぼ》してなだめまする信実に、兼松も感じて鼻をすゝりながら、
 兼「コウ兄い、いま姉《あね》さんもいう通りだ、親方の恩は大抵の事《こっ》ちゃアねえ、それを知らねえ兄いでもねえに、何うしたんだ、何《なん》か人にしゃくられでもしたのか、えゝ、姉さんが心配《しんぺい》するから、おい兄い」
 長「お政さん御親切は分りやしたが、弟子師匠の縁が切れてみりゃア詫言《わびこと》をする訳もねえからね、人は老少不定《ろうしょうふじょう》で、年をとった親方いゝや、清兵衛さんより私《わっち》の方が先へ往《い》くかも知れませんから、他《ひと》を当《あて》にするのア無駄だ、
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