しぶかわ》の商人《あきんど》と、茂之助は差向いで一猪口《いッちょこ》飲《や》りながら、
治「こう茂之助さん、君イね、何も彼《か》も心得の有る人なり、それに前々は先《ま》ず戸田さまの御藩中であって大小を差した人に向って、僕が失敬な事を云うようで済みませんが、何うせ君の気に入るまいけれども、君の妻君のような者を持つは、実に此の上ない幸福だと思うが、おくのさんの心掛てえものは別だね、其の代り田舎育ちだから愚図だと云うは、何うもまア何かその云うことが、私《わし》も田舎者だから田舎の贔屓《ひいき》をするてえ訳じゃア無いが、言葉が違うので貴方《あなた》の気に入らんか知りません、言葉は国の手形さ、亭主の留守を守るのが細君の第一の勤め、家事を治めるのが当然《あたりまえ》の処だが、如何にもその、おくのさんの家事の守りようが真実で、無駄のないようにして、織娘《おりこ》の手当から、織上げさせてからに自分ですっかり綴糸を附けて、直ぐに六斎へ持出せるように拵えて置くのに、貴方《あんた》は少しも宅《うち》へ帰らねえのは心得違いで有りましょう、尤も今じゃア別に成っておいでなさるから宅へ往《ゆ》く事も有りますまいが、
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