ゝつ》になります男の子と生れて間もない乳呑児《ちのみご》を残し、年取った親父や亭主思いの女房をも棄《すて》て死のうと云う心になりましたが、これは全く思案の外《ほか》、色情から起りました事で、此の色情では随分|怜悧《りこう》なお方も斯様になりますことが間々あります。女房おくのは夫茂之助に別れる時に、何うも様子が変で、気になってなりませんから、万一《ひょっと》して軽躁《かるはずみ》な事をしてはならぬと、貞女なおくのでございますから、一歳《ひとつ》になりますおさだと申す赤児《あかんぼ》を十文字に負《おぶ》い、鼠と紺の子持縞の足利織の単物《ひとえもの》に幅の狭い帯をひっかけに結び、番下駄を穿《は》いて暮方から江川村を出まして、猿田の松五郎の宅へ参りました。見世は片付けて仕舞い、縁台も内へ入れて一方《かた/\》へ腰障子が建って居ります、なれども暑い時分でございますから、表は片々《かた/\》を明け放し、此処に竹すだれを掛け、お瀧が一人留守をして居りますと、門口から、
おくの「はい、御免なさいまし」
お瀧「何方《どなた》でございますか」
くの「松五郎さんのお宅は此方様《こちらさま》でございますか」
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