した。
茂「有難う/\……さア、お定は少し泣いたよ」
くの「誠に御方便なもので……布卷吉は何うやら一人学校へ参《めえ》りますし、私《わし》はお定を寝かし付けて、出来ない手で機を織って些《ち》っとずつ借金を埋めて置くように為《し》ます、悪《わり》い跡は善《よ》いだアから貴方《あんた》も気を落さずに身体を大切《でいじ》にして下せえまし、何事も子供と年寄に免じて勘忍しておくんなさいよ」
茂「あい……あいお前のような貞実な女房を余所《よそ》にして悪党女に騙されて迷ったのは、己の身に罰《ばち》が当ったのだが、何うぞ私《わし》の留守中親父を頼みます、宜《い》いかえ、私は是から一旦栄町へ帰って直《すぐ》に立つ積りだ」
くの「お茶でも上げたいが往来|中《なか》で」
茂「なに、お茶も何も飲みたくはない、留守中おくの身体を大切《だいじ》にしなよ」
くの「はい、貴方《あんた》が横浜から帰って来たらば、ちょっくら栄町の家《うち》を訪ねますから」
茂「あいよ、子供を頼むよ」
と何も彼《か》も人情が分って居ながら、諦めの附かんと云うものは因縁の然《しか》らしむる処でもございましょうが、茂之助は松五郎お瀧の二人を
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