思った事も度々《たび/\》有ったが、お瀧の畜生に騙されて、子供の傍へ来る事も出来ねえ身の上になったが、彼《あ》ん畜生|余《あんま》りと云えば悪い奴だけれども、さっぱり縁を切って仕舞ったから、彼奴《あいつ》は松五郎と夫婦になったし、もう何も彼奴に念は無いから其処《そこ》に心配は有りません」
くの「それでも能く思い切ったね、勘弁する時にしねえばなんねえが、それも是も子供や私《わし》に免じて勘忍したで有りましょうが……おや貴方《あなた》の頭《つむり》に疵が出来てるのは何う為《し》やした」
茂「此の間中|独身者《ひとりもの》で居るから、棚から物を卸そうとすると、砂鉢《すなばち》が落《おっこ》って此様《こんな》に疵が付いたのさ」
くの「あらまア然《そ》うかね、危ねえ、定めて不自由だろうと思っても、近い処《とこ》だが往《い》く事も出来ないんだ、……然んなら私《わし》が脇差を持って来るからお定を抱いて居ておくんなさいよ」
茂「泣くといけねえから成《なる》たけ早く」
くの「はい、直《じき》に往って参《めえ》りますよ」
 と是から家《うち》へ帰り、親父に知れぬように脇差をこっそり持って来て茂之助に渡しま
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