ならないから、是非横浜へ往きたいのだが、何うも身装《みなり》が悪いと衆人《ひと》の用いが悪いから、羽織だけは他《わき》で才覚したが、短かい脇差を一本お父さんに内証で持って来てくれねえか」
十四
くの「脇差なんぞを差さねえでも宜《い》いじゃア有りませんか」
茂「脇差を差さねえと人の用いが悪いのだから持って来てくんな」
くの「お定がこんなに大《でか》く成りやしたよ、ちょっくら抱《でえ》て遣っておくんなせえ」
茂「じゃア己が抱いて居るから持って来ておくれ」
くの「あんた、大分《でえぶ》顔の色が悪いが、詰らねえ心に成ってはいけませんよ、一人のお父さまを見送らねえ中《うち》は貴方《あんた》の身体では無《ね》えから、譬《たと》え何《ど》んなに厳《やか》ましいたって、お父さまが塩梅《あんべえ》が悪くなって、眼を引附《ひきつ》ける時に来て死水を取れば、誰が何と云っても貴方の家《うち》に極って居るから、腹の立つ事も有りましょうが、子供や私《わし》に免じて何うぞ軽躁《かるはずみ》な事を為《し》ねえようにしてお呉んなせいよ」
茂「はい/\……決して軽躁は為ない、是までは殺して仕舞おうかと
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