も小包を提げて買物を致し、自分の家へ這入りに掛る処を茂之助が見付け、
茂「おい、お瀧/\」
たき「あい……恟《びっく》りしたよ、何んですえ」
茂「何んですとは何んだ、何んですもねえもんだ」
たき「何を云うんだよ、何うしたんだねえ」
茂「何うもしねえのよ、お前《めえ》に少し云う事が有って己は[#「己は」は底本では「已は」]来たんだ、お前と云うものは何うも実に不実な女だぜ、己に済むけえ、前橋に居た時に何卒《どうぞ》して東京へ帰りたい、何時までも此処に芸者をして居ても堅くして居ちゃア衆人《ひと》の用いが悪うございます、此の節は厭な官員さんが這入って来て御冗談を仰しゃる事が有るから困ります、私も旧《もと》は武士《さむらい》の娘ですから然《そ》んな真似も為《し》たくないと云うから、己が可愛相だと思えばこそ無理才覚をして、藤本へ掛合って、手前《てめえ》の身請をして遣った時にゃア手を合せて拝んだじゃアねえか、その恩を忘却して何んだ、松公に逢いたいから請出されて来たとは何んの云い草だ、何うも然ういう了簡とも知らず騙されたのは僕が愚だから仕方も無《ね》えが、剰《あまつ》さえ三十金手切を取って、これ見よが
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