だれ寄って亭主の事を悪口《あっこう》を云うのだから腹の立つのも道理、茂之助は無茶苦茶に斬込んで来ましたから二人は驚き、お瀧は慌てゝ逃げ出《いだ》す。松五郎は旧《もと》は士族だけに腕に覚えの有る奴、素《もと》より剛胆の奴ゆえ左《さ》のみに驚きませんで、一歩|退《さが》って後《あと》に有りました烟草盆を取ってポカリと投げ附けると、茂之助の肩をかすッてパチリと柱へ当ると、灰は八方へ散乱致す、其の中《うち》にお瀧は一生懸命だから四巾布団《よのぶとん》を取って後《うしろ》から茂之助を抱き締めましたが、女の事で身丈《せい》が低いから羽がい締めと云う訳には参りません、脇の下をお瀧に押えられたが、茂之助は無茶苦茶に刀を振り舞しながら、
茂「間男見附けた、さア二人重ねて置いて四つにしようと八つに為《し》ようと己の了簡次第だ、間男見付けた」
 と死物狂いの声で呶鳴《どな》り立てゝ、ピン/\と鼻へ抜けて出る調子で、精神《たましい》はもう頭へ上《のぼ》って居ます。松五郎は何か無いかと四辺《あたり》をキョロ/\探すと、巻手《まきて》と申しまする何か機織道具で、長《たけ》二尺ばかり厚み一寸も有ります巻手と云うもの
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