茂「畜生、亭主の病気が癒ってがっかりする奴が有るものか」
 ともう耐《こら》え兼ねて、短い脇差へ手を掛けて抜き掛けて土間口から這入って来るとも知らず、奥では一盃飲みながら松五郎の膝へもたれ掛り、
たき「□□□□□□□□□□□□□□□」
 と、一盃の酒を飲み合い、もたついて居るのを見たから堪りません。平素《ふだん》温和《おとな》しい善《よ》い人の怒《おこ》ったのは甚《ひど》いもので、物をも云わずがらりと戸を開けて中へ飛込み、片手に抜身《ぬきみ》を提《さ》げて這入ると、未だ寝は致しません、お膳の前でピッタリ寄添って酒を飲んで居る処へ飛込んだから、少し間合が早かったけれども、我慢が出来ませんから松五郎を目懸けて斬り込むと云う、此の事が騒動の始まりでございます。

        八

 東京でも他県でも色恋の道では随分自分の身を果します、間男をされて腹を立てぬものは、一人もございません、男同士でも交情《なか》が善《よ》くって手を曳合《ひきあ》って歩いても、他《わき》の人とこそ/\耳こすりでもされますと男同士でも嫉妬《ちん/\》を起して、彼《あれ》は茂山《しげやま》氏の傍《そば》へばかり往っ
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