ご》もうかと思ったが、いや/\二人枕を並べて居る処へ踏込まなければ遣り損うと思いましたから、尚おそっと窓の下に茫然《ぼんやり》立って居ると、藪蚊と毒虫に螫《さゝ》れるので癢《かゆ》くて堪りませんから、掻きながら様子を立聞をして居ました。
* そろばんがたの、すかしのあるかんざし、この頃流行せしもの。

        七

たき「何んにも無いが、魚屋に頼んで置いたら些《ち》っとばかり赤貝を持って来たからお食《あが》りな」
松「何んだか何うも心配だなア」
たき「大丈夫だよ、お前が前橋へ来た時には私は貧乏して居たが、縁と云うものは妙だね、私が芝居町で芸妓《げいしゃ》をして居た時分に、まだ私が十五六で雛妓《したじっこ》で居た時分からお前さんに岡惚をして居て、皆《みんな》に嬲《なぶ》られて居る中《うち》に、一度が二度逢引をすると、其の時分には幾ら私が惚れたッてお前さんは未だ殿様株で、立派な気の詰るような人でありましたが、思う念も遂げられたけれども、それがため借金が出来て、此様《こん》な田舎へ出稼《でかせぎ》するような身になって、前橋に居た時にもお前さんに逢いたいばかりで、厭だけれども茂之助を金
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