ある山田川の渦巻立った谷川へ、彼《か》のお藤は真逆《まっさか》さまに落ちましたが、これは何様《どん》な者でも身体が微塵《みじん》に砕けます。
峯「どうした杢八」
杢八「なんだ、己が横ッ腹ア蹴《け》たら婆アおっ死《ち》んだ」
峯「大きに御苦労だ、何しろ惜しい事をした、肝腎の女《たま》ア此の谷へ落しちまった」
杢「どうした」
峯「川の中へ飛込んだ」
杢「どうする」
峯「どうするたって仕様がねえ、とても助からねえ、愚図ッかして人が来ると仕様がねえ、鞄は車へ乗せるから……手前《てめえ》、何処へ往《い》く」
杢「往くッたってお前《めえ》唯は往かれねえ」
峯「そりゃア極って居らア、さアこれを持って往け」
杢「これだけありゃア今月一|杯《ぺい》は休みだ」
峯「旨《うめ》え物でも食って娼妓《じょろう》でも買え」
杢「有難《ありがた》え、こんな手伝《てつだえ》しなけりゃア旨《うめ》え物が食えねえから」
峯「己は乗せて来た鞄を持って往くから、後《あと》ア又伊香保で会おうぜ」
杢「じゃア別れる」
 と彼《か》の鞄を付けて峰松は折田村の傾斜《なだれ》を下りましたが、見かけによらぬ大悪人でございます。此の峯松は
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