乗市四郎という者でありますが、此の人は誠に天稟《うまれつき》侠客《きょうかく》の志がございまして、弱い者を助け、強い者は飽くまでも向うを張りまするので、村方で困る百姓があれば、自分も困る身上《みじょう》でございますが、惜し気もなく恵むという極《ごく》義堅い気質でございまして、三の倉に居ります中《うち》は御領主の小栗上野介様が討たれました時其の村方を御支配なさるお方が彼様《あん》なお死に様《よう》をなすって誠にお気の毒の事というので、其の人に附いて居りました忠義の御家来、老人であるからというので自分方へ引取って三ヶ年介抱を致して、此の人が此の市四郎のお蔭で見送りをされますなどという細かきお話は後《あと》で申上げますが、中々聞かない気質で、其の代り此の市四郎は学問がございませぬから開化の事は頓と心得ませぬが、巡査|様《さん》でも何でも見境なく無暗《むやみ》に強情を張って巡査様の手を取って向山の坂を降り、また登って派出所に参りました。巡査様もお驚きで、左様なる暴な奴に逢っては仕方がないもので、此の事を警部|様《さん》へお伝えなされた事でございますから、警部公お出向きなされたが、恐れる気色《け
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