を度々《たび/\》なさったお方が、段々|商人《あきんど》におなり遊ばして、世の中の人と同等の御交際をされますが、昔を知って居りますから貴《とうと》く思いまして」
 などゝ話のうちに追々肴が真中《まんなか》へおし並びますので、
幸「由兵衞|一猪口《いっちょこ》…」
由「有難う……、胡麻豆腐は冷えませんうち召上ると云うことは出来ません、先から冷たいからこれも温《あった》かゝったら旨かろうと思います……瓜揉は感心で、少し甘ったるいのは酢が少し足らない……今日《きょう》は小峰《こみね》さんと云う芸妓《げいしゃ》が参りますが、是も昔は長刀《なぎなた》の、ぞうりをはいてと伊左衞門《いざえもん》ではありませんが大層なお身の上の人で」
 と話のうち小峰が参りましたから、
由「ヤア来た/\……あゝ来た、どうも綺麗だ」

        二十七

幸「さア/\此方《こっち》へ、貴方大きくおなんなすって」
由「御覧なさい、お小さいうちに逢った限《ぎり》で、昔馴染と云うものはねえ旦那」
幸「お上りなすって、さア……どうもお美くしくお成りなすった」
由「上等/\……さア/\大変|先刻《さっき》からお待ち申して居りました」
やま「誠に遅うなりまして……御免下さい、貴方ねえ昼間のうちから上りたいと申してはそわ/\して居りまして、早く行ってお目に懸りたいと申して、直《すぐ》に木暮さんへ行こうと申して居りましたが、大屋さまへ行っても運動にでもお出《で》で留守だといけまいから、それより暮れてからのお約束だからと申してね貴方」
由「へえ大変に待って居たので……イヤこれはどうも誠に」
小峯「昨日《きのう》は母が誠に失礼を致しまして」
幸「どうも暫く、実にお見違い申して、往来で逢っては知れませんよ」
由「実にお見外《みそ》れ申します……えゝ貴方のお少《ちい》さい時分に私はお屋敷へ上ったことがございます、あの時はそれ両方のお手に大きな金平糖と小さい金平糖、赤いのが這入った袋を二つ持って入らしって、私が頂戴と云うと貴方一つ下すった、お気象がよくって入らしって、もう一つと云うと、また袋の中から、もう一つ/\と皆《みん》な貰って仕舞って、終《しま》いにはもう一つもないから、袋を覗いてお泣きなすったことがありましたが、彼《あ》の時分からお馴染でげすから」
小峯「有難うございます、お母《っか》さんが帰って来てまア、由兵衞さんがお出《い》でなすったから早くお目にかゝれと申して……また昨日は有難うございます」
幸「どう致して」
やま「あんなにお茶代を頂き済まないと申して、お茶代なぞ頂く了簡ではないと申して」
由「貴方そう思召しますからいけないのです、茶見世を出したら茶代は沢山《たんと》取る方が宜しゅうございます、料理屋なら料理を無闇に売るのが徳で、由兵衞なぞは莨入《たばこいれ》なら少々ぐらい破れて居ても売って仕舞います、それが商売で………これはお隣りの座敷においでの方で」
やま「おや何方様《どなたさま》も……」
女「誠に……おや思いがけない、お前やまじゃアないか」
やま「おやお嬢様……お岩さまがお供でございますか」
由「おや、これは/\御存じで」
やま「御存じだってお少《ちい》さい時分お乳を上げたのでございますもの」
幸「不思議でげすねえ、これはどうも、へえー」
やま「誠に御無沙汰申上げましたが、もう実にお見違い申すようにおなり遊ばして、只今ではお尋ね申すことも出来ませんで……左様で、小石川へ入らしったと承わりました……お岩様誠に貴方いつもお変りもなく」
岩「誠に久しくお目にかゝりませんで、つい/\ねえ貴方|種々《いろ/\》な事があって、申すにも申されぬことがございまして、小石川へお引込《ひっこみ》になって、何も彼《か》も御存じでありましょうが、此の節のお身の上、実においとしい事でございますが、お少さい時分御案内の通り彼《あ》の事が決りませんで、私《わたくし》が只一人でじゃ/\張ってお側にお附き申して居りますから、お心丈夫に入らっしゃいと申して、種々深い理由《わけ》があって今度は当地へ湯治が宜かろうと仰しゃるので、三週間のお暇を頂き、私もお蔭様で保養いたしますが、実にどうもねえ、貴方にお目に懸ろうとは思いませんでした」
やま「お嬉しゅうございますわ、私《わたくし》も此の橋本にお目に懸ったのですが、昔のことを仰しゃると面目次第もない、どうもねえ……娘《これ》が芸妓《げいしゃ》をして、娘は貴方それ七歳《なゝつ》の時に御覧なすった峰と申す娘で、誠にこれが芸妓をして私は誠にもう面目ない葭簀張《よしずっぱり》の茶見世を出して、お茶を売るまでに零落《おちぶ》れました、それから見ればお岩様なぞは此方様《こなたさま》のお側だから何も御不足はないので、まア/\結構でございます」
岩「はい実に苦労しても
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