ご》もうかと思ったが、いや/\二人枕を並べて居る処へ踏込まなければ遣り損うと思いましたから、尚おそっと窓の下に茫然《ぼんやり》立って居ると、藪蚊と毒虫に螫《さゝ》れるので癢《かゆ》くて堪りませんから、掻きながら様子を立聞をして居ました。
* そろばんがたの、すかしのあるかんざし、この頃流行せしもの。
七
たき「何んにも無いが、魚屋に頼んで置いたら些《ち》っとばかり赤貝を持って来たからお食《あが》りな」
松「何んだか何うも心配だなア」
たき「大丈夫だよ、お前が前橋へ来た時には私は貧乏して居たが、縁と云うものは妙だね、私が芝居町で芸妓《げいしゃ》をして居た時分に、まだ私が十五六で雛妓《したじっこ》で居た時分からお前さんに岡惚をして居て、皆《みんな》に嬲《なぶ》られて居る中《うち》に、一度が二度逢引をすると、其の時分には幾ら私が惚れたッてお前さんは未だ殿様株で、立派な気の詰るような人でありましたが、思う念も遂げられたけれども、それがため借金が出来て、此様《こん》な田舎へ出稼《でかせぎ》するような身になって、前橋に居た時にもお前さんに逢いたいばかりで、厭だけれども茂之助を金持だと思って来て見れば、矢張《やっぱ》り金は有りゃアしないんだアな、彼《あ》の時は有る振りをしていたから、此の人に取っ掴《つか》まって居たら、またお前さんに逢える時節も有ろうかと来て見ると、立派な女房も有るんだよ、是まで余《あんま》り道楽をしたとか云うので、実家《うち》へも帰られないので此様な汚ない空家を借りて世帯《しょたい》を持たして、爺むさいたッてお前さん茅葺《かやぶき》屋根から虫が落ちるだろうじゃアないか、本当に私を退《ひか》したって亭主振って、小憎らしいのだよ、此間《こないだ》の晩も種々《いろ/\》話したいことが有るんだけれども出来ないと云うのはね、茂之助が、寝て居て鼾は掻くが時々動いたりバタ/\したりして気味が悪いから、じっと我慢をして居たが、本当に松さん居難《いにく》いと思っておくれ、お前に逢って斯う云う訳に成ったら、茂之助が厭に成って何か彼奴《あいつ》に云われると、本当に身の毛立つほど厭なんだよ、併《しか》し大金を出して、私の身を請出してくれた恩が有るから、黙って居るけれども、実は厭なんだよ、私は半年でもお前さんと夫婦に成らなけりゃア置かないよ、若《も》し夫婦に成れなけれ
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