巧《うま》いもんでございますね、渋い事をさせては彼《あ》の位の役者はございませんね、他《ほか》の役者とは違いますね、むずかしい事を致しますが、実に巧いもんで」
由「えゝ堀越《ほりこし》は別でございます」
女「それに菊五郎は上手なことで、左團次さんも巧いものですが、菊五郎と左團次と一対揃って巧いものでございますね」
由「へえ彼《あれ》は中々巧いもので」
女「小團次《こだんじ》は大層役者を上げましたね、それに私は福助《しんこま》の人気の有るには本当に驚きましたよ、往来《そと》を福助《ふくすけ》が通ると私共のような者まで駈出して見る気になりますのは別で、また娘なぞに成ると実に綺麗でございますね」
由「えゝ誠に綺麗で……(小さな声で)これは延べつだ」
女「大層綺麗で人気の有ることは別でございますから、何うかして身体を快《よ》くして遣りとう存じまして、私も心配致して居りますが、何う云うものでございましょう、癒《なお》りましょうかね」
由「へえ癒るかも知れません、松本先生などがお骨折ですから癒りましょう」
女「それに家橘《かきつ》が大層渋く成りましたのに、松助《まつすけ》が大層上手に成りましたことね、それに榮之助《えいのすけ》に源之助《げんのすけ》が綺麗でございますね」
由「えゝ彼《あれ》は誠に綺麗な事で……これは堪らん、旦那少し代って下さいまし、私《わたくし》は小便に往《ゆ》きますから」
女「お手水は其方《そちら》じゃアいけません此方《こちら》でございますよ」
由「へえ種々《いろ/\》御親切に有難う存じます」
と由兵衞はこそ/\逃出しました跡で、彼《か》の女は橋本幸三郎に向いまして、
女「貴方も東京のお方で」
幸「へえ」
女「彼《あ》の方と何方《どちら》へいらっしゃいますの」
幸「私《わたくし》は足利まで参りますので」
女「おやまアお嬉しいこと私も足利へ参りますの、私は足利町五丁目の親類共に居りまする吉田屋《よしだや》のふみと云うもので、何うか些《ちっ》とお訪ね下さいまし」
幸「左様でございますか」
女「貴方は足利は何方でございます」
幸「ヘヽヽ極く外れの野暮な処へ参りますが、何《いず》れまたお訪ね申しましょう」
女「何卒《どうぞ》入らしって下さいましよ」
幸「有難うございます」
女「私は五丁目に居りますので、右側の何でございますよ、貴方は」
幸「へい栄町の変な処《とこ》を
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