後から参ります、左様なら宜しく」
 かね「何んだよお前、御親切に知らせて下すったのに何故|直《すぐ》に往かないんだよ」
 長「なぜったって此の形《なり》じゃア往かれねえ……手前《てめえ》のを貸しねえ」
 かね「いやだよ私の着物がありゃアしないよ」
 長「手前は宅《うち》に居るんだからこの半纒を着て居やアな」
 かね「そんなものを着ては居られません、お尻がまるで出てしまうよ」
 長「湯巻《ふんどし》を締めてりゃア知れないよ」
 かね「人が来ても挨拶が出来ないよ」
 長「面と向って話をして、後《あと》へ退《さが》る時に立てなければ後びっしゃりをすればいゝ」
 かね「おふざけでないよ」
 長「そんな事を云わねえで貸しな」
 と無理やりに女房の着物を引剥《ひっぱ》いでこれを着て出掛けました。

        三

 左官の長兵衞は、吉原土手から大門《おおもん》を這入りまして、京町一丁目の角海老楼《かどえびろう》の前まで来たが、馴染の家《うち》でも少し極りが悪く、敷居が高いから怯《おび》えながら這入って参り、窮屈そうに固まって隅の方へ坐ってお辞義をして、
 長「お内儀《かみ》さん、誠に大御無沙
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