、暫く経って帰って来まして、またコソ/\話をしましたが、解ったと見えまして、
 主人「羽織を出してくんナ……文七や供だよ」
 文「ヘエ」
 と文七が包《つゝみ》を持って旦那の後《あと》へ随《つ》いて観音様へ参詣を致し、彼《あ》れから吾妻橋へ掛りました時に文七は「あゝ昨夜《ゆうべ》此処《こゝ》ン処《とこ》で飛び込もうとしたかと思うと悚然《ぞっ》とするね」と云いながら橋を渡って参りました。
 主人「本所達磨横町というのは何処《どこ》だえ、慥か此所《こゝ》らかと思うが、あの酒屋さんで聞いて見な左官の長兵衞さんというお方がございますかッて」
 文「ヘエ……少々物を承ります、エヽ御近所に左官の長兵衞さんて方がございますか」
 番頭「それはね、彼処《あすこ》の魚屋の裏へ這入ると、一番奥の家《うち》で、前に掃溜《はきだめ》と便所《ちょうずば》が並んでますから直《じき》に知れますよ」
 主人「大きに有難う存じます、それから五升の切手を頂戴致します、柄樽《えたる》を拝借致します、樽は此方《こちら》で持って参りますから」
 と代を払って魚屋の路地へ這入って参ります。此方は長兵衞の家《うち》は昨夜《ゆうべ》
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