気褄《きづま》の取れる人間じゃアねえが、其の中《うち》にゃア様子も解るだろうから……己は早く家《うち》へ帰《けえ》ってお母《っかあ》にも悦ばせ、借金方を付けて、質を受けて、汝《てめえ》の着物も持って来るから」
内儀「そんな事は宜《い》いよ、江戸|行《ゆき》の時に取りに遣《や》るから……お前財布があるまい、お金も丁度|他家《わき》から来たのがあるから財布ぐるみ百両貸して上げるよ、さア持っておいで」
長「へえ、誠に何うも、有難うござえやす、じゃアお内儀さん直《すぐ》にお暇《いとま》しやす」
内儀「早く家《うち》へ往ってお内儀さんに安心させてお上げよ」
長「じゃアお久、宜いか」
久「お母《っか》さんによくいっておくれよ」
長「あい、あい」
と戸外《おもて》へ出たが、掌《て》の内の玉を取られたような心持で腕組を為《し》ながら、気抜の為たように仲の町《ちょう》をぶら/\参り、大門を出て土手へ掛り、山の宿《しゅく》から花川戸《はなかわど》へ参り、今|吾妻橋《あづまばし》を渡りに掛ると、空は一面に曇って雪模様、風は少し北風《ならい》が強く、ドブン/\と橋間《はしま》へ打ち附ける浪の音、
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