い、困るよ、疾《と》うに金は届いてる処《とこ》へ又百両持って来るてえのは訝《おか》しいじゃアないか」
文「ヘエ/\、誠に粗忽《そこつ》千万な事を致しました、何《な》んとも何《ど》うも申訳はございませんが、実は慥《たし》かに懐へ入れてお邸《やしき》を出た了簡でございまして、枕橋まで参ると怪しい奴が私《わたくし》に突き当りながら、グッと手を私の懐の中へ入れました時に奪《と》られたに違いないと思い、小僧の使じゃアなし、旦那様に申訳がない、百両の金子を奪られては済まんと存じまして、吾妻橋から身を投げようと致す所へ通り掛ったお職人|体《てい》の方が私《わたし》を抱き止めて、何ういう訳で死ぬかと尋ねましたから、これ/\と申すと、それは気の毒だ、此処《こゝ》に百両有る、これを汝《てめえ》に遣るから泥坊に奪られない積りで主人の処《とこ》へ往くが宜《い》い、併《しか》しそれは尋常《ただ》の金じゃない、たった一人の娘が身を売った身《み》の代金《しろきん》だけれども、これを汝に遣るからと仰しゃって、御親切なお方に戴いて参りましたのでございます」
主「イヤハヤ何《ど》うも呆れちまった、何うだろう、其のお方が通らんければドブリと飛び込んで仕舞い、土左衛門になっちまったんだ、アヽ危い処《とこ》だ、ムヽ、其のお方はお前の命の親だ、御真実なお人だの、何うも百金と云う金を直《す》ぐに恵んで下さるとは有難いお方だ、その何は何処《どこ》のお方で何《な》んと云うお方様だ」
文「ヘエ……何んてえお方だか存じません」
主「馬鹿だねお前何うもコレ百両という大金を戴きながら、其のお方のお名前も宿所《しゅくしょ》も聞かんてえ事はありませんよ」
文「お名前も所もお聞き申す間もないので、アレ/\といってる中《うち》に、ポンと金を打《ぶ》ッ附けて逃げて往《ゆ》きました」
主「金を人に投げ附けて逃げて行《ゆ》く奴があるものか、お名前が知れんじゃアお礼の為《し》ようもなし、本当に困るじゃアねえか」
文「ヘエ、誠に何うも済みませんで」
主「ムー……娘を売った金とかいったな」
文「ヘエ、その今年十七になるお久さんという娘の身を角海老へ売った金が百両あるから、これをお前に遣るが、娘は女郎《じょうろ》にならなけりゃアならない、悪い病を受けて死ぬかも知れないから、明暮《あけくれ》凶事のないように、平常《ふだん》信心す
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