あゝ何《な》んでも斯《か》んでも娘を女郎《じょうろ》にするのだ、仕方がねえ、其の代り己の娘が悪い病《やめえ》を引受けませんよう、朝晩凶事なく達者で年期の明くまで勤めますようにと、お前心に掛けて、ふだん信心する不動様でも、お祖師様でも、何様へでも一生懸命に信心して遣っておくれ」
男「何う致しまして左様な金子は要りません」
長「己だってさ遣りたくも無《ね》えけれどお前《めえ》が死ぬというから遣るてえのに、人の親切を無にするのけえ」
と云いながら放り付けて往きました。
男「やい何を為《し》やアがるんだ、斯《こ》んなものを打附《ぶっつ》けやアがって、畜生め、財布の中へ礫《いしころ》か何か入れて置いて、人の頭へ叩き附けて、ざまア見やアがれ、彼様《あん》な汚ない形《なり》を為《し》ていながら、百両なんてえ金を持ってる気遣《きづけ》えはねえ、彼様な奴が盗賊《どろぼう》だか何《な》んだか知れやアしない、此様《こん》な大きな石を入れて置きやアがって」
と撫《なで》て見ると訝《おか》しな手障《てざわり》だから財布の中へ手を入れて引出して見ると、封金《ふうきん》で百両有りましたから恟《びっく》りして橋の袂《たもと》まで追駆《おっか》けて参り、
男「もしお前さん、今のお方もし……アヽもう見えなくなっちまった……有難う存じます、此の御恩は死んでも忘れやア致しません、左様なお方とも存じませんで悪口《あっこう》を吐《つ》きまして済みません、誠に有難う存じます、必ず一度は此の御恩をお返し申します、有難う存じます」
と生返ったような心持になりましたから、取急いで白銀町三丁目の店へ帰って参りましたが、御主人は使いの帰りが遅いから心配でございます。
主人「平助《へいすけ》どん、未だ帰りませんか文七は」
平「へえ、まだ帰りません、使いに出すと永いのが彼《あれ》の癖で、お払い金などを取りにお遣りなさるのは宜しくない事で、誠に困りましたな」
主「帰ったら能く小言をいいましょう」
と心配して居る処へ表の戸をトン/\/\、
文「番頭さんトン/\/\……番頭さん文七でございます、只今帰りました」
平「旦那、文七が帰りました」
主「よく然《そ》ういってくんな」
平「今開けるよ……何《ど》う云うもんだなア、余《あんま》り遅いじゃアないか掛廻《かけまわ》りに往った時などは早く帰って来てくれな
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