ず、と云って何処《どこ》へ往って相談致すという処もございませんから、身を投げるんで、大金の事でございますから何《ど》んな処《とこ》へ参りまして相談を致しても無駄でございますから身を投げるのでございます、何《ど》うぞお構いなく往らしって」
 長「百両奪られちまッたのかえ、何うも為《し》ょうがねえなア、冗談じゃアねえぜ、大店《おおとこ》なんてえもなアおおまかだなア、己《おら》ッちの身の上では百両の金で借金を残らず払って、好《い》い正月が出来るんだが、本当に、大金を奪られるような者に払いを取りに遣るとはおおまかなもんだなア、お前《めえ》もまた間抜じゃアねえか、胴巻へ入れて確《しっか》り懐へ入れて置けば宜《い》いのに、百両といえば重《おめ》え金額《かね》だ、本当に冗談じゃアねえぜ、だがの……金で生命《いのち》は買えねえや、え、おう、何処《どっか》へ相談しに往きねえな、旦那に逢って然《そ》う云いねえ、泥坊に奪られて誠に面目|次第《しでえ》もござえやせん、全く奪られたに違《ちげ》え有りやせんて、え、おう何処《どっか》へ往って相談して見ねえな」
 男「へえ、相談したくも親も兄弟も無い身の上で、主人も手前ばかりは身寄頼りのない身の上だから、辛抱次第で行々《ゆく/\》は暖簾《のれん》を分けて遣る、其の代り辛抱をしろ、苟《かりそめ》にも曲った心を出すなと熟々《つく/″\》御意見下すって、余《あんま》り私を贔屓《ひいき》になすって下さいますもんだから、番頭さんが嫉《そね》んで忌《いや》な事を致しますから、相談も出来ませんが、何うしても私《わたくし》が女郎《じょうろ》買でも為《し》て使い込んだとしきゃア思われませんから、面目なくって旦那さまに合《あわ》す顔はございません、なに宜しゅうございますからお構いなく往らしって」
 長「いけねえなア、何うしてもお前《めえ》死《しな》なくッちゃアいけねえのか………じゃア仕方がねえ、金ずくで人の命は買えねえ、己も無くッちゃアならねえ金だが、お前に出会《でっくわ》したのが此方《こっち》の災難《せえなん》だから、これをお前に………だが、何うか死なねえようにしてくんなナ、え、おう」
 男「ヘエ、死なないように致しますから、お構いなく往らしって下さいまし」
 長「お構《かめ》えなくッたって……じゃア往くから屹度《きっと》死なねえとはっきり極りをつけてくんなよ」

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