え訳になっちまったんだけれども、たった一人の娘を女郎《じょうろ》に売りたくもねえし、世間へ対《てえ》しても済まねえ訳だ、又本意でもねえから、然《そ》んな事を為《し》たくもねえが、何うでも斯《こ》うでも此の暮が行立たねえから、お久、親が手を突いて頼むが、何うかまア他家《ほか》さまなら願《ねげ》え難《にく》いが、此方《こちら》さまだから悪くもして下さるめえから、此方さまへ奉公して、二年か三年辛抱してくれゝば、汝の身の代だけは一旦借金の方《かた》せえ付けてしまえば、己がまたどんなにでも働《はたれ》えて、汝の処は何《な》んとかするが、然《そ》うしてくれゝば己への良《い》い意見だから、向後《きょうこう》ふっつりもう賭博《ばくち》のば[#「ば」に傍点]の字も断って、元々通り仕事を稼いで、直《じき》に汝の身受を為《し》に来るから、それまで汝奉公してえてくれ」
四
久「私は、固《もと》より覚悟をして来た事だから、何時《いつ》までも奉公しますけれど、お前また私の身の代を持ってってしまって、いつものように賭博《ばくち》に引掛《ひっかゝ》ってお金を失してしまうと、お母《っかあ》がまたあゝいう気象だからお前に逆らって、何《な》んだ彼《か》んだというとお前が又癇癪を起して喧嘩を始めて、手暴《てあら》い事でもして、お母の血の道を起すか癪でも起ったりすると、私がいればお医者を呼びに往ったり、お薬を飲ましたりして看病する事も出来ますが、私がいないと、お母を介抱する人がないのだから、後生お願いだが、私は幾年でも辛抱するからお前お母と交情好《なかよ》く何卒《どうぞ》辛抱して稼いでおくんなさいよ、よ」
長「あいよ………あいよ……誠に何《ど》うもカラどうも面目|次第《しでえ》もごぜえやせんで、何《な》んともはや、何うも、はア後悔《こうけえ》しやした」
内儀「御覧よ、こういう心だもの、実に私も此の娘《こ》には感心してしまったが、お前|幾干《いくら》お金があったら此の暮が行立《ゆきた》つんだよ」
長「へえ私《わっち》共の身の上でごぜえやすから百両《いっぽん》もあればすっかり綺麗さっぱりになるんで」
内儀「百両《ひゃくりょう》で宜《い》いのかえ」
長「へえ…」
内儀「それではお前に百両のお金を上げるが、それというのも此の娘の親孝行に免じて上げるのだよ、お前持って往って又うっかり
前へ
次へ
全19ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング