さると云いましたので参りました」
殿「そう思って来てくれゝば嬉しいじゃアないか」
七「ところが黄金を下さいましたろう、貴方が」
殿「左様」
七「私《わたくし》は余り嬉しいから二枚一緒に奪取《ひったく》りましたものか、一枚遣ろうと仰しゃったのは慥《たし》かに覚えて居ります、それを懐に入れてせっせと駈けて行《ゆ》くと、胸がむか/\いたしますから虎ノ門の傍《わき》で反吐《へど》を吐《つ》きました」
殿「汚ないのう」
七「それから宅へ帰って懐を捜すと無い、定めてこれは反吐の中へ落したんだろうと思いまして、虎ノ門へ取《とっ》て返し、反吐の中を掻廻すと有りましたから悦んで宅へ帰ると、家内の申すには、溝板《どぶいた》の上へ黄金が落ちてたと申しましたが、大方御前のお出しになった時、二枚奪取ってまいったに違いありませんから、これはお返し申して一枚頂戴……」
殿「いや其の方には一枚しか遣りゃアしない………これに一枚ある」
七「へえ……こゝに二枚あります」
殿「一枚剥がして其方《そち》へ遣ったんだよ、これに一枚あるだろう」
七「へえ……黄金はだん/″\殖《ふえ》るかね、妙な事もあるもんですな」
殿「貴様の拾
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