面倒だというので、只へえへえという、誠に張合抜がいたします。
殿「何うだ見せようか」
七「見たって仕様が有りません」
殿「なれども上から拝領するは容易ならんことだよ」
七「へえ……大きなもんですな、これは幾許《いくら》ぐらいのものですな」
殿「それは何んだの相場によって違うが、大抵二十五両ぐらいの通用のものである」
七「へえ一枚二十五両ッ……これが一枚あれば家内にぐず/″\いわれる訳はないが、二枚並んでゝも他人《ひと》の宝を見たって仕方がないな」
殿「何をぐず/″\いって居《お》る、別に欲しくはないか、一枚やろうかな」
七「へゝゝゝ嘘ばっかり」
殿「なに嘘をいうものか、一枚やろう」
 と御酒機嫌とは云いながら余程御贔屓と見えまして、黄金を一枚出された時に、七兵衞は正直な人ゆえ、これを貰えば嘸《さぞ》家内が悦ぶだろうと思い、押戴いて懐へ突っ込んで玄関へ飛出しました。
殿「あれ/\七兵衞が何処《どっ》かへ往《い》くぞ、誰か見てやれ」
 七兵衞は委細構わずどッとゝ駈けてまいると、ちら/\雪が降り出してまいりました。どッとゝ番町今井谷を下りまして、虎ノ門を出にかゝるとお刺身にお吸物を三杯食った
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