ので胸がむかついて耐《たま》りませんから、堀浚《ほりさら》[#「浚」は底本では「凌」]いの泥に積っている雪の上へ吐《と》しました。十分|嘔《は》いて胸が癒《なお》ったからせっせと新銭座の宅へ帰ってまいりましたので、女房は恟《びっく》りいたしました。
内儀「おや大層お早く、たま/\いらっしゃいましたから今晩はお遅かろうと思いましたが、石川様は御機嫌宜しゅうございましたか」
七「はい、お役替で」
内儀「お役替、おゝ/\それはお目出度いところへ入らっしゃいました」
七「どうもね、その、お役替で」
内儀「何うなすったの」
七「むゝゝ……じゃ」
内儀「懐を捜していらっしゃいますが、何うかお落し物ですか」
七「え……これは無い、これは無い」
内儀「何うなすったの」
七「何うしたって(金を受取り押戴き懐へ入れる真似をして考えている)」
内儀「あなた何をなすって入らっしゃいます」
七「お屋敷を駈出して、虎ノ門の堀端で屈《こゞ》んだ時に懐から辷《すべ》ったに違いない……ちょいと往って来るよ」
とまた駈出しました。
内儀「傘も差さずに貴方何処へいらっしゃいます」
七兵衞はどん/″\駈けてまいり、こゝら
前へ
次へ
全13ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング