「賤しいたって貴方、お米を買うことが出来ませんよ、今日も米櫃《こめびつ》を払って、お粥にして上げましたので」
七「それは/\苦々しいことで」
内儀「そんな事を仰しゃらずに往って入らっしゃいまし」
七「じゃア往《い》こう、だが当にしなさんな」
内儀「あなた、そのお服装《みなり》じゃアいけません、これを召していらっしゃい」
七「なに、これで沢山だ、悪いと云えば帰って来る」
 と無慾の人だから少しも構いませんで、番町の石川という御旗下の邸《やしき》へ往《ゆ》くと、お客来で、七兵衞は常々御贔屓だから、
殿「直《すぐ》にこれへ……金田氏貴公も予《かね》て此の七兵衞は御存じだろう、不断はまるで馬鹿だね、始終心の中《うち》で何か考えて居って、何を問い掛けてもあい/\と答をする、それが来たので、妙な男で、あゝ来た来た、妙な物を着て来たなア、何だハヽヽ袖無しの羽織見たような物を着て来たな、七兵衞構わずこれへ」
七「へえ」
殿「誠に久しく会わんのう」
七「へえ」
殿「再度書面を遣ったに出て来んのは何ういうわけか」
七「へえ」
殿「他へでも往ったか」
七「へえ」
殿「煩いでもしたか」
七「へえ」
殿「然《そ
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