がない、お米が天から授からないので」
内儀「そんな事を云っていらしっては困ります、何処へでも忠実《まめ》にお歩きあそばせば、御贔屓のお方もいかいこと有りまして来い/\と仰しゃるのにお出でにもならず、実に困ります、殊に日外中《いっかじゅう》度々《たび/″\》お手紙をよこして下すった番町の石川様にもお気の毒様で、食べるお米が無くっても、あなたは心柄で宜しゅうございましょうが、私《わたくし》は実に困ります」
七「困ったって、私《わし》は人の家《うち》へ往ってお辞儀をするのは嫌いだもの、高貴《うえ》の人の前で口をきくのが厭だ、気が詰って厭な事だ、お大名方の御前《ごぜん》へ出ると盃を下すったり、我儘な変なことを云うから其れが厭で、私は宅《うち》に引込《ひっこ》んでゝ何処へも往《い》かない、それで悪ければ仕様がない」
内儀「仕様がないたって、あなた何へいらっしゃいましよ、あの石川様へお歳暮だって入らっしゃると、いつでも貴方に千疋ぐらい御祝儀を下さるじゃアありませんか」
七「他人《ひと》のものを当《あて》にしちゃアいかん、他人のものを当にして物を貰うという心が一体|賤《いや》しいじゃアないか」
内儀
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