く稼ぎなさるが、七兵衞さんは以前《もと》大家の人ですが、運悪く田舎へ来てなア気の毒じゃ、なれど此の高岡は家数《やかず》も八千軒もある処で、良い船着《ふなつき》の処《とこ》じゃが、けれども江戸御府内にいた者は何処《どこ》へ行っても自由の足りぬものじゃ、さぞ不自由は察しますぞよ……お梅はん私《わし》をお前忘れたかえ、覚えて居まいのう」

        十六

梅「はい覚えてと仰しゃるは」
永「私《わし》の顔を忘れたかえ、十三年も逢わぬからなア」
梅「そうでございますか、じゃア旦那江戸にいらっしゃいましたことが有るの」
永「お前は以前《もと》根津の増田屋の小増という女郎《じょうろ》だね」
梅「あれ不思議な、旦那|何《ど》うして知れますの」
永「何うしたって、それは知れる、忘れもしない十三年|前《あと》、九月の月末《つきずえ》からお前の処へ私《わし》も足を近く通った、私は水司又市だが忘れたかえ」
梅「おやまア何うも、旦那|然《そ》う仰しゃれば覚えて居ますよ、だけれどもお髪《ぐし》が変ったから些《ちっ》とも分りませんよ……何うもねえ」
永「何うもたって私《わし》は忘れはせんぜ、お前|此処《こゝ
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