のような女房が死んで一周忌も経たねえ中《うち》、女郎《じょうろ》を買って子供に泣きを掛けるような人では、何《ど》んな事が有ってもお前さんの側へは参《めえ》りませんよ、碌《ろく》な物も喰わせねえではア」
梅「あゝ云うことを云って、正太が云ッつけるからですよ」
婆「何云ったって是が皆《みん》な知って居らア、何だ、さア正太来い」
 と中々田舎のお婆さんで何と云っても聴きません。到頭強情で、正太郎を負《おぶ》って連れて帰った。さア一つ災《わざわい》が出来ますと、それからとん/\拍子に悪くなります。

        十五

 翌年湯島六丁目の藤屋火事と申して、自宅から出火で、土蔵|二戸前《ふたとまえ》焼け落ち、自火《じか》だから元の通り建てる事も出来ませんで、麻布《あざぶ》へ越しましたが、それから九ヶ年過ぎますると寛政四|壬子年《みずのえねどし》麻布大火でござります。市兵衛町《いちべえちょう》の火事に全焼《まるやけ》と成りまして、忽《たちま》ちの間に土蔵を落す、災難がある、引続き商法上では損ばかり致して忽ち微禄して、只今の商人方《あきんどがた》と異《ちが》って其の頃は落るも早く、借財も嵩《かさ
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