を紅葉の枝へ附けてお通んなはいましたねえ、滝の川へ入《いら》っしゃったの、御様子の好《い》いことゝ云ってお噂をして居たのですよ」
又「左様か、お前は当家の家内かな」
婆「おや厭ですよ、私は二階を廻す者です」
又「なに二階を廻す、この二階を」
婆「あれさ力持じゃアございません、本当に小増さんをお名指《なざし》は苛《ひど》いじゃアございませんか」
又「何が苛い、買いたいと思ったから登《あが》ったわ」
婆「本当に外で見染めて揚るのは一ばん縁が深いと申します、本当にお堅過ぎますよ、お袴をお取りなさいよ」
 と云ううちに小増が出て参りまして、引付《ひきつけ》も済んで台の物が這入《はい》りますから、一猪口《いっちょこ》遣《や》って座敷も引け、床になりましたが、素《もと》より田舎侍でありますから、小増は宵に顔を見せたばかりで振られました。

        二

 翌朝《よくあさ》門切《もんぎれ》にならんうちにと支度を致しまして、
又「これ/\婆ア/\」
婆「厭だよ婆アなんてさ」
 と云いながら屏風を開けて、
婆「お呼びなはいましたか」
又「いや昨夜《ゆうべ》な些《ちっ》とも小増は来《こ》ぬて」

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