るに気が注《つ》かねえで居た、それで汝《われ》黙って居たか、父《ちゃん》に云わねえか」
正「云った、云ったけれどもお母さんが旨く云って、おのお前の着物を縫っていると踏んだから、いけないと云ったら、態《わざ》と踏んだから縫物《しごと》を引張《ひっぱ》ったら滑って転んだって然《そ》ういって嘘をつくの、先《せん》のお母さんが生きていると宜《い》いんだけれども、お婆さんの処へ逃げて行《い》こうと思った、連れてって呉れねえか」
婆「おゝ連れて行かねえで、見殺しにする様なもんだから、可愛そうに、汝《われ》に食わせべえと思って柿を持って来たゞ」
正「あのね麦焦《むぎこがし》が来ても、自分で砂糖を入れて塩を入れて掻廻してね、隠して食べて、私には食べさせないの、柿もね、皆《みん》な心安い人に遣《や》って坊には一つしか呉れないの、渋くッていけないのを呉れたの」
婆「それは父《ちゃん》に汝《われ》いうが宜《よ》い」
正「云ったっていけない、いろんな嘘をついて云つけるからお父さんは本当と思って、あのお母さんは義理が有るのだから大事にしなければならない[#「ならない」は底本では「なならい」]、優しくすれば増長す
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