前《ま》はんお題目の一遍もあげてお遣《や》んなはい」
 と勧められ、くよ/\して客を取る気もなく情《じょう》のある様な振《ふり》をするも外見《みえ》かは知れませんが、皆来ては悔《くや》みを云う。処が翌年になって風《ふ》と来た客は湯島《ゆしま》六丁目|藤屋七兵衞《ふじやしちべえ》と云う商人《あきゅうど》、糸紙《いとかみ》を卸《おろ》す好《よ》い身代で、その頃此の人は女房が亡《なくな》って、子供二人ありまして欝いで居るから、仲間の者が参会の崩れ
「根津へ行って遊んで御覧なさらんか、ちょうど桜時で惣門内を花魁《おいらん》の姿で八文字《はちもんじ》を踏むのはなか/\品が好く、吉原も跣足《はだし》で、美くしいから行って御覧なさい」
 と誘われて行《ゆ》くと、悪縁と云うものは妙なもので、増田屋の小増は藤屋七兵衞の敵娼《あいかた》に出る、藤屋七兵衞の年は二十九だが、品が好い男で、中根善之進に似ている処から一寸《ちょっと》初会に宜《よ》く取ったから足を近く通う気になり、女房はなし、遠慮なしに二会馴染《うらなじみ》をつけ、是から近《ちか》しく来るうち互に深くなり、もう年季は後《あと》二年と云うから、そん
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