奴、予《かね》て覚悟があろう、それへ直れ」
 と云いながらすらりと長いのを抜きましたから、二人は彼《あ》アは云って出たが、是で手討にされることかと覚悟をして、両手を合わせ頸《くび》を伸ばして居る。
重「女から先《ま》ず先へ斬らなければならん、傳助広小路の方から人が来やアしないか」
傳「いゝえ」
 と覗《うかゞ》う傳助の素頭《すこうべ》を、すぽんと抜打《ぬきうち》にしましたが、傳助は好《い》い面の皮。
重「あゝいや驚かんでも宜しい、主人の事を有る事無い事|告口《つげぐち》を致す傳助、家に害をなす奴、此処《こゝ》で切殺《きりころ》せば誰《たれ》も知る者はない、試切《ためしぎり》か何かに遭《あ》ったのだろうで済んでしまう」
 と小菊の紙を出して血を拭《ぬぐ》い、鞘《さや》に納め、有合せの金子を出して、
重「多分に持参すれば宜かったが、今まで心得なかった故、ほんの持合せで二十金ある、路銀の足しにも成るまいが、是でお前が仇《あだ》を討って帰ってくれんでは、私《わし》が一生不孝者で終らんければならん、お前の家も絶えてはならん、照も実に道に背いた女と云われるもお前の心一つであるぞよ……我儘者だが何卒
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