幾度も書損《かきそこ》ない、よう/\重二郎の云う儘に書終り、封を固く致しました。
重「これは私がお母様の何時《いつ》も大切に遊ばす彼《あ》の手箱の中へ入れて置く……きん、何《ど》うも長い間|度々《たび/\》照が来てお前の家《うち》でも迷惑だろう、主人の娘が貸してくれと云うものを出来ぬとは義理ずくで往《い》かんし、親切に世話をしてくれ忝《かたじけ》ない、多分に礼をしたいが、帰り掛《がけ》であるからのう、是は誠に心ばかりだが世話になった恩を謝するから」
きん「何う致しまして私《わたくし》がそれを戴いては済みません、何うかそれだけは」
重「いゝや、其の替り頼みがあるが、今日|私《わし》が来て照と山平殿に頼んで旅立をさせた事は、是程も口外して呉れては困る、少しも云ってはならぬよ、口外して他《ほか》から知れゝば、お前より外《ほか》に知る者はないから拠《よんどころ》なくお前を手に掛けて殺さなければならんよ」
きん「はい/\/\どう致しまして申しません」
重「じゃア宜しい、さア山平殿、照早く表へ出なさい、宜しいから先に立って出なさい」
 二人は何事も只《た》だ有難いと面目ないで前後不覚の様《よう》に
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