ら密通と思召《おぼしめ》すに違いない、密通もせぬに然う思われては残念と刃物三昧でもすると、お父様お母様に猶更《なおさら》済みませんぞよ、必ずとも道中にて悪い物を食して、腹に中《あた》らぬ様にしなさるが宜《よ》いのう、お照」
 と五月《いつゝき》になるお照の身重の腹を、重二郎に持って居ります扇でそっと突かれた時は、はッとお照は有難涙《ありがたなみだ》に思わず声が出て泣伏しました。

        十一

 山平も面目なく、
山「何共《なにとも》申訳はござらぬ、重々不埓至極な事拙者…」
重「いゝや少しも不埓な事はござらん、国表に於《おい》て又市が何《ど》んな事を為《す》るか知れん、万一重役を欺《あざむ》き、大事は小事より起る譬喩《たとえ》の通りで捨置かれん……お父様お母様へも書置を認《したゝ》めるが宜《よ》い……硯箱《すゞりばこ》を持って来な」
きん「はい」
重「硯箱を早く」
きん「はい」
重「何《な》んだ是は、松魚節箱《かつおぶしばこ》だわ」
きん「はい」
 と漸《ようや》く硯箱を取寄せて、紙《かみ》筆《ふで》を把《と》らせましても、お照は紙の上に涙をぽろ/\こぼしますから、墨がにじみ
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