、彼《あ》の日逐電して行方知れず、落書《らくがき》だらけの扇子《おうぎ》が善之進殿の死骸の側に落ちて有ったが、その扇子は部屋で又市が持っていた事を私は承知して居《い》るから、敵《かたき》は私の考えでは又市に相違なし、お国表へ立廻る彼《あ》アいう悪い心な奴、殊に腕前が宜しいから何《ど》んな事を仕出《しで》かすかも知れん、故に私が改めて貴公に頼むは、何うか隠密《おんみつ》になってお国表へ参って、貴公が何うか又市を取押えて呉れんか……照お前は何処迄《どこまで》も又市を探《たず》ねて討たんければならぬが、私から山平殿に一緒に行って下さいとは、何うも養子に来て間もなし、頼む訳には表向《おもてむき》いかんから、お前はお父様《とっさま》やお母様《っかさま》への申訳に、私《わたくし》も武士の家へ生れ女ながらも敵討を致したい故、池の端の弁天様へ、兄の仇《あだ》を討たぬ中《うち》は決して良人《おっと》を持ちませんと命に懸けての心願である処へ、強《た》って養子をしろと仰しゃるから養子をしたが、重二郎とは未《いま》だ同衾《ひとつね》を致しませんのは、是まで私が思い立った事を果《はた》さずば、何うも私が心に済み
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