とうち》に切ろうとする時大勢の見物の顔色《がんしょく》が変って、
見物「あゝ」
 と思わず声を上げました。

        六十二

見物「あゝ危ねえ、誰か助太刀が出そうなものだ」
 と云って居るが、誰《たれ》も出る者はない。すると側に立って居たのは左官の宰取《さいとり》で、筒袖《つつッぽ》の長い半纏を片端折《かたはしおり》にして、二重廻《ふたえまわ》りの三|尺《じゃく》を締め、洗い晒《ざら》した盲縞《めくらじま》の股引をたくし上げて、跣足《はだし》で泥だらけの宰取棒を持って、怖いから後《あと》へ下《さが》って居たが、今鼻の先へ巡礼が倒れ、大の侍が振冠《ふりかぶ》って切ろうとするから、人情で怖いのを忘れて、宰取棒で水司又市の横っ面《つら》をぽんと打《ぶ》った。
見物「あゝそら出た/\助太刀が出た、誰《だれ》か出ずには居ないて、何うも有難うございます、いゝえ中々一人では討てる訳がない、あれは姿を※[#「窶」の「穴かんむり」に代えて「うかんむり」、「窶」の俗字、514−11]《やつ》して居ても、屹度《きっと》旗下《はたもと》の殿様だ、有難い/\」
 と喜び、わア/\と云う。又市は横面《よ
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