もいが》けない……あの旦那様きんが」
山「なに」
照「あのそれ団子屋のきんが」
きん「おや/\あの山平様、誠に何うもまア貴方何う遊ばしたかと存じて居りましたが、宜くまアそれでも……私《わたくし》は何うもお見掛け申したお方だと考えて居りましたが、貴方の方がお忘れ遊ばさずにきんと仰しゃって下すった」
照「私は彼《あ》の時は元服前で見忘れたろうが、私は何うも見た様だと思い、お前が口を利く声柄《こえがら》で早く知れましたよ」
きん「誠に何うも思掛けない、まア/\旦那様御機嫌宜しゅう、何うしてね此処に入らッしゃるのでございますえ」
山「はい長い間旅をして、久しく播州の方へ参って、少しの間|世帯《せたい》を持って居たり、種々《いろ/\》様々に流浪致し、眼病に成ってから故郷懐かしく、実は去年から此処へ来て世帯《しょたい》を持って居る」
きん「何うも些《ちっ》とも存じませんよ、尤も此方《こちら》の方へは滅多には参りませんけれどもねえお嬢様、あらついお嬢様と云って、あの御新造様え、私《わたくし》の亭主の傳次と申します者は旅魚屋でございますが、商売に出ても賭博《ばくち》が好きで道楽ばかりして、女房を置去り
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