え》へ掛って六間堀の方へ曲りますと、水司又市は一人になりまして、深川の元町へ掛って来たから最う我慢は出来ません。先へ通り抜けると、御案内の通り片側《かたかわ》は籾倉《もみぐら》で片側町になって居りまして、竹細工屋、瀬戸物屋、烟草屋《たばこや》が軒を並べて居り、その頃田月堂という菓子屋があり、前町を出抜けて猿子橋にかゝりますると、此方《こちら》は猿子橋の際《きわ》に汚い足代《あじろ》を掛けて、苫《とま》が掛っていて、籾倉の塗直《ぬりなお》し、其の下に粘土《ねばつち》が有って、一方には寸莎《すさ》が切ってあり、職人も大勢這入って居るが、もう日が西に傾きましたから職人も仕事をしまいかけて居ります、なれども夕日は一ぱいに映《さ》す。其の中《うち》に空は時雨《しぐれ》で曇って、少し暗くなりました所で、笠を取って刎除《はねの》け、小刀《しょうとう》を引抜きながら、
繼「親の敵」
と名告《なの》りながらぴったり振冠《ふりかぶ》った時は、水司又市も驚いたの驚かないの、恟《びっく》り致して少し後《あと》へ退《さが》る。往来の者も驚きました。人中《ひとなか》で始まったから、はあと皆|後《あと》へ下《さが
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