戸詰に成りまして間がない事で、これまでお引立《ひきたて》を蒙《こうむ》りましたは、実は武田の重左衞門《じゅうざえもん》様の御恩でござります、そのお家の御二男様が御養子の約束になって居るものを、貴方が否《いや》と仰しゃれば何故《なにゆえ》に背《そむ》くと、夫《そ》れより事が顕《あら》われますれば、拙者は屋敷を逐出《おいだ》される事になります、私《わたくし》の身は仕方がない事でございますが、あなた様の御尊父にも済まぬ事で、何卒《どうぞ》是れまでお約束は致しましたが、何卒親御の意を背くは不孝なり、あなたも世間へ済まぬことになりますから、只今までの事は水にあそばして、何うかあなた武田から御養子をなすってください、実は只今まで私はお隠し申したが、国表を立出《たちい》でます時男子出産して今年二歳になります、国には妻子がございますので」
照「えゝ」
 と娘は驚きまして、じッと白島山平の顔を見て居りましたが、胸に迫ってわっとばかりに泣倒れました。
きん「あなた奥様があるの、おやお子さん方がお二人、まだ若いのに、おや然《そ》うでございますかねえ…お嬢さん白島様が御迷惑になりますから、お厭でもございましょ
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