の庵室に居ったから苗字《みょうじ》を櫻川と云って五十石にお抱えに成ったが、知慧もあり剣術も出来て余程《よっぽど》賢い奴だ、其の荷を拵えた工合《ぐあい》は旨いもので、動けない様にする工夫が巧《うま》いものじゃアないか」
山「へえ、それは全く修行者で、六部でげすか」
久「いや段々聞いたら何でも尋常《たゞ》の奴でない、人の噂でも何うも尋常漢《たゞもの》でない、大かた長脇差では無いかという評判を立てたら、当人がそんならお話をいたしますが、実は私《わし》は元は侍で、榊原藩でございますと云ったそうだが、面部《かお》に疵を受けた、総髪《そうはつ》の剛《えら》い奴で」
山「それは何でげすか、名はなんと」
久「名は櫻川という処に居った者で、櫻川又市と云う」
山「へえ桜川という処の者で」
久「いゝえ桜川の庵室に居ったから、それを姓として櫻川又市というので、面部《かお》に疵があり、えゝ年は四十一二で、立派な逞《たく》ましい骨太《ほねぶと》の剛い奴で」
山「左様でげすか、そりゃア立派な者でげすなア、何うもその才智もえらい者だが、私《わし》は何卒《どうぞ》して其の方を見たいものでげすな」
久「なに、時々下屋敷へ
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