久「先生々々」
山「誰方《どなた》ですえ」
久「えゝ中村久治でげす、さて先日は大きに」
山「えゝ貴方は先日急に御用で揉掛けになって、まだ腰の方だけが残って居りました」
久「いやもう私《わし》は酒は飲まず、外《ほか》に楽《たのし》みも無いので、まア甘い物でも食い、茶の一杯も飲むくらいが何よりの楽み、それに私はまア此の疝気《せんき》が有るので、疝気を揉まれる心持は堪《こた》えられぬて、湯に這入ってから横になって疝気を揉まれるのが何より楽しみだが、先生は私の様な者だからと思って安く揉んで下さるんで先生は柔術《やわら》剣術も余程《よっぽど》えらいと云うことを聞いて居りますが、何うも普通《あたりまえ》の先生でない、たしか去年でげしたか、田月という菓子屋で盗賊を押えなすったって、私の屋敷でもえらい評判でねえ」
山「なに出来やア致しませんが、幸いに泥坊が弱かったから……これ照やお茶を上げろ……是やア詰らぬ菓子ですが、丁度貰いましたから召上るなら」
久「いやこれは有難い、先生の処はお茶は好《よ》し菓子までも下さる、有難いと云って毎度噂を致します、何卒《どうぞ》又少し療治を願いましょうか」
山「えゝお
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