の者も及ばぬ、実に彼《あ》のくらいの養子は沢山《たんと》あるまい、此の上もない有難い事でのう、早く照をお呼びなさい」
妻「はい、お照や一寸|此処《こゝ》へお出《い》で、お父様《とっさま》がお帰りになったよ、さア此処へお出で」
 御重役でも榊原様では平生《へいぜい》は余り好《よ》い形《なり》はしない御家風で、下役の者は内職ばかりして居るが、なれども銘仙《めいせん》の粗《あら》い縞の小袖に華美《はで》やかな帯を〆《し》めまして、文金の高髷《たかまげ》で、お白粉《しろい》は屋敷だから常は薄うございますが、十九《つゞ》や二十《はたち》は色盛り、器量|好《よし》の娘お照、親の前へ両手を突いて、
照「お帰り遊ばせ」
善「はい……此処へお出で、今お母様《っかさま》にお話をしたが、お兄様《あにいさま》は去年あの始末、お前にも早く養子をしたいと思ったが、親の慾目で、何うかまア心掛のよい聟《むこ》をと心得て居ったが、武田の重二郎が当家へ養子に来てくれる様に疾《と》うから話はして置いたが、漸《ようや》く今日話が調《とゝの》ったからお母様と相談して、善は急げで結納の取交《とりかわ》せをしたいが、媒妁人《なこう
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