致さんではならんと心配致して居りましたが、丁度三月末の事、善右衞門が遅く帰りまして、
善右衞門「一寸《ちょっと》お前」
妻「お帰り遊ばせ」
善「いや帰りにね武田へ寄って来た」
妻「おや、大分《だいぶ》お帰りがお遅うございますから、何処《どこ》かへお立寄と存じまして」
善「少し悦ばしい話があるが」
妻「はい」
善「斯《こ》う云う訳だが、予《かね》てお前も知っての通り、昨年悴が彼《あ》アいう訳になって私《わし》も最《も》う勤《つとめ》は辛いし、大きに気力も衰えたから、照に何《どん》な者でも養子をして、隠居して楽がしたい訳でもないが、養子を致さんではと思って居た処が、幸いと武田の次男|重二郎《じゅうじろう》が養子になるように相談が極《きま》ったよ」
妻「おやまアそれは何《ど》うも此の上もない事でございます、お屋敷|中《うち》でも親孝行で、武芸と云い学問と云い、あんな方はございません、評判の宜《よ》い方でござりますねえ」
善「それに彼《あれ》は武田流の軍学を能《よ》くし、剣術は真影流の名人、文学も出来、役に立ちますが、継母に育てられ気が練《ね》れて居て、如何《いか》にも武芸と云い学問と云い老年
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