から、漸《ようや》く有合せの金を持って逃げて、再び桑名川村へ帰る事も出来ぬような訳だ、その上右の手の裏へ傷を受け、その疵《きず》を縫って養生するにも長く掛ったが、先刻《さっき》己が寝覚を通りかゝると汝が通るから、これは妙だ、何ういう訳で巡礼に成って出るかと思って跡を尾《つ》けて来たんだ」
繼「はい何方でございますか、人違いでございましょう、私《わたくし》は左様なものではございません」
典「汝は其様《そん》なことを云って隠してもいけねえ、先刻おれが笈摺を見たら、信州|水内郡《みのちごおり》白島村白島山之助と書いて有った」
繼「えゝ」
典[#「典」は底本では「繼」]「さ其の通り書いて有るから仕方がねえ」
繼「いゝえ私《わたくし》は左様な者ではございません、私は越中高岡の者で」
典「えゝ幾ら汝が隠したっても役に立たねえ、姿は巡礼だが、汝《てまえ》[#ルビの「てまえ」はママ]が余程《よっぽど》金を持ってる事ア知ってる、さ己が汝《てめえ》の姉の為に斯《こ》う云う姿になった代りに金を強奪《ふんだく》って汝を殺すのだが、金を出しゃア命は宥《ゆる》して遣《や》ろう、おれは追剥《おいはぎ》をするのじゃア
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