て遣ろうかえ」
繼「有難う存じます」
萬「私《わし》も遣りてえが、銭がねえ、此処《こゝ》にある一分二朱と二百文、これを皆《みんな》遣ってしまおう、さ私は是れが一生懸命に遣るのだ」
繼「有難う存じます」
 是から檀家へ此の話を致しますると、孝行の徳はえらいもので、彼方此方《あちらこちら》の檀家から大分《だいぶ》餞別が集まって、都合三十両出来ました。その内二十両はぴったりと腹帯肌襦袢に縫付けて人に知れぬように致し、着慣れませぬ新らしい笈摺を引掛《ひきか》け、雪卸《ゆきおろ》しの菅《すげ》の笠には同行二人《どうぎょうににん》と書き、白の脚半に甲掛草鞋《こうがけわらじ》という姿で、慣れた大工町を出立致しまする。其の時には土地の者も憐《あわ》れに心得て、とうとう坂井まで送り出したと申す事でござります。これから先《まず》高田へ来ましたのは、水司又市は以前高田藩でございますから、若《も》しも隠れて居りはせぬかと、高田中を歩きましたが、少しも心当りがございませんから、此処を出立して越後路を捜したが、頓《とん》と手掛りが有りません。だん/\尋ねて新潟へ参ると、新潟は御承知の通り人出入りの多い処でございま
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