すけ》という家来に手丸《てまる》の提灯《ちょうちん》を提げさして、黄八丈の着物に黒羽二重の羽織、黒縮緬の宗十郎頭巾《そうじゅうろうずきん》を冠《かぶ》って、要《かなめ》の抜けた扇を顔へ当てゝ、小声で謡《うたい》を唄って帰ります所へ、物をも言わず突然《だしぬけ》に、水司又市一刀を抜いて、下男の持っている提灯を切落すと、腕が冴《さ》えて居りますから下男は向うの溝《みぞ》へ切倒され、善之進は驚き後《あと》へ下《さが》って、細身の一刀を引抜いて、
善「なゝ何者」
と振り冠《かぶ》る。
又「おゝ最前の遺恨思い知ったか」
と云う若気の至り、色に迷いまして身を果すと云う。これが発端《はじめ》でございます。
五
水司又市が悪念の発しまする是れが始めでございます。若い中《うち》は色気から兎角了簡の狂いますもので、血気|未《いま》だ定まらず、これを戒《いまし》むる色に在《あ》りと申しますが、頗《すこぶ》る別嬪《べっぴん》が膝に凭《もた》れて
「一杯お飲《あが》んなさいよ」
なぞと云われると、下戸でも茶碗でぐうと我慢して飲みまして煩《わずら》うようなことが有りますが、惚抜《ほれぬ
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