善「これ/\水司、あれほど云うに分らぬか、若い者を打擲《ちょうちゃく》して殺す気か、痴《たわ》けた奴だ、左様なる事をすると武田へ云ってしくじらせるが何《ど》うか、これ此の手を放さぬか/\」
 と云いながら十三間の平骨の扇で続け打《うち》にしても又市は手を放しませんから、月代際《さかやきぎわ》の所を扇の要《かなめ》の毀《こわ》れる程強く突くと、額は破れて流れる血潮。又市は夢中で居ましたが、額からぽたり/\血が流れるを見て、
又「はアお打擲に遇《あ》いまして、手前面部へ疵《きず》が出来ました」
善「左様なまねをするから打擲したが如何《いかゞ》致した、汝はな此の後《ご》斯様《かよう》な所へ立廻ると許さぬから左様心得ろ、痴呆《たわけ》め、早く帰れ/\」
又「何も心得ません処の田舎侍でござって、一つ屋敷の侍が斯様なる所へ来て恥辱を受けますれば、その恥辱を上役のお方が雪《そゝ》いで下さることと心得ましたを、却《かえ》って御打擲に遇いまして残念でござりまする、只今帰るでござる、これ女ども袴と腰の物を是へ持て」
 と急に支度をしてどん/\/\/\と毀れるばかりに階子《はしご》を駈下《かけお》りると、
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